ノーム・チョムスキーによるタクシム広場・ゲジ公園レジスタンスをめぐる世界への声明

ノーム・チョムスキーによるタクシム広場・ゲジ公園をめぐる世界への声明

 

 

今、イスタンブールの街頭とトルコ諸都市で、何が起こっているというのか。それは、利害を追求する企業が跳梁跋扈する資本主義の渦に、所与のものであるはずの人間の生存権を巻き込もうとする途方もない”暴力”という名の圧政に立ち向かう人々の、勇敢な実録である。

 

中でも、中東において主要かつ最も重要な国であるトルコで今回のような運動が起きたということは、特に注目に値する。トルコにおいては何が起ころうとも広範な地域に及ぶ影響をもたらし、既に中東ではその火蓋が切って落とされようとしている。

 

この運動は、多種多様な形態を取りながら各地で勃発しているネオリベラルに対する抵抗運動において、主たる一部分を構成しているに過ぎない。だが確かに、世界各地で抵抗の狼煙が上がっているのである。

 

ゼロ年代初頭、ラテンアメリカ各国では長年に及ぶ奮闘の末、実質上アメリカの支配下に置かれている西側陣営を除き、アメリカの影響下から完全なる脱却を指向する気運が胎動し始めた。(※アメリカ合衆国における外交の基本姿勢は、モンロー主義である。すなわち、欧州列強へ向けて相互不干渉を謳い、ラテンアメリカを勢力下に置かんとする態度である)

 

完全独立を目指すラテンアメリカ各国は、不当に押し付けられた借款の納金を拒絶する意志を示した。一方、その他の国々は別の方法論を模索して、自国の成長と発展を縛り付けるネオリベラルの軛から自らを解き放たんとしている。それぞれの思惑が激しく拮抗し合い、アメリカ大陸全土に緊張が走っている。現在一時的な小康状態を保っている「アラブの春」も、この潮流に共鳴し始めた一例だ。

 

これに対し国際金融機関や西側陣営、及び現地の独裁権力などの保守勢力は経済弾圧を断行し、反ネオリベラル勢力の懐事情をじわじわと蝕んでいる。めまぐるしい早さで時代が大きく動こうとしているのだが、これから私たちの世界はどこへ向かおうとしているのか、まだ誰も知る由もない。

 

トルコは今まさに当事者であるが、ここアメリカ合衆国でも2011年に勃発した「ウォール街を占拠せよ」運動の煽りを受けてウィスコンシン州でも抵抗運動が勃発し、さらにこうした運動はギリシャを始め、スペインなどヨーロッパ各地に燃え広がっている。(※「ウォール街を占拠せよ」運動とは、リーマン・ショック以降の不景気による就職難にしびれを切らした若者を中心としたアメリカの財界、政界に対する抗議運動である。ウォール街のズコッティ公園を本拠地としたため、その名が付いた)

 

過去のアメリカの経済政策が産み出した富の局地的な集中は世界の構造を歪め、そのツケが今、世界中を飛び回っているのである。(※詳しくは、「南北問題」や「近代世界システム論」を参照されたい)

 

非常に残念なことに、トルコではここ2、3年、時代を遡るような退行現象が見受けられる。なぜなら彼らにとって1990年代とは、完全なる悪夢なのだから。(※90年代のトルコは、ケマル・アタトュルクに倣う世俗中心主義の政党と伝統的なイスラーム主義に則る政党の間で揺れ動き、しばしば政治的な混乱が見られた)

 

しかしゼロ年代初頭から現在にかけて、トルコは見事な躍進を遂げた。具体的には、多くのジャーナリストが世界各地で恩赦され、形態を変えて圧政を阻止せんとする活動が行われている。

 

人々の抵抗の意志が、確実に萌芽している。直近では、イスタンブールにおける最後の市民の憩いの場、ゲジ公園が軍と高級指向の市場原理主義により存亡の危機に瀕し、古き良きイスタンブールの景観が破壊されようとしている。そして現在、これらに対する人々の抵抗の意志は、国境を超えて息吹いているのである。

 

私は世界の国際団体に問いかける。人間の自由、尊厳、正義、公共福祉を守ることを使命として謳うなら、この運動に手を差し伸べ、団結してこれに臨むべきである。

 

そして幸運なことに、多くの国際団体が実際に垣根を超えて団結し、当事者としてこの運動に手を携えている。彼らはこの流れをさらに助成し、結束を強めていくべきである。なぜなら国境を超えた共闘があり、全ては此処にこそあるのだから。

 

世界中で吹き荒れる抵抗の風を抑止せんとする強大な権力によりヨーロッパは緩やかな死へと向かい、その影響はアメリカにも飛び火している。この運動は、単に彼らの悲願のみを達成するためだけに存在しているのではない。この事実に気付かせることで、富の局地的集中を招く政策に終止符を打ち、人々の声に耳を傾けさせるような既得権者への警告となるべき使命をも負っているのだ。

 

そして今まさにトルコにおける抵抗運動に参加している者は、あなた達自身がこの運動を最も強力にサポートする”希望の光”とならなければならない。そうすれば、あるいはあなた達は今もどこかで闘っている同胞達の指標となり、彼らにとっての”希望の光”から”希望の星”へと昇華されることだろう。

なぜなら「タクシム広場」は今此処にあり、抵抗は此処にこそあるのだから!

 

マサチューセッツ工科大学 言語学及び言語哲学教授 兼名誉教授

ノーム・チョムスキー(Prof. Noam Chomsky)

 

 

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